害虫から植物を守る全く新たなタイプのタンパク質

タイトル 害虫から植物を守る全く新たなタイプのタンパク質
担当機関 (国研)農業・食品産業技術総合研究機構 生物機能利用研究部門
研究課題名
研究期間 2011~2018
研究担当者 今野浩太郎
志村幸子
上野千尋
新川徹
中村匡利
発行年度 2018
要約 クワの乳液から発見されたMLX56様タンパク質は、昆虫の消化管内の囲食膜という薄膜を異常に肥厚させて消化を抑制するという、これまでに報告がない全く新たなしくみで昆虫の成長を阻害するタンパク質である。本タンパク質を用いた新害虫防除技術や新害虫防除資材の開発が期待できる。
キーワード MLX56、植物防御タンパク質、囲食膜肥厚、クワ、乳液
背景・ねらい 昆虫(害虫)に対し毒性や成長阻害活性を示すタンパク質は害虫防除に利用されている。しかし、現在利用されているタンパク質はその種類が限られているうえに、抵抗性を発達させた害虫も出現しているため、新たな作用機構をもつタンパク質の発見が求められている。これまでの農研機構の研究で、クワの葉や葉柄の切り口から滲出する乳液(図1)から極めて低濃度(0.01~0.04%)で昆虫の成長を阻害するMLX56という新規タンパク質が見出されている。このタンパク質はカイコ以外のガ類(エリサン、ヨトウガ、ハスモンヨトウ、コナガ)などの害虫を含む多くの昆虫の成長を阻害することが判明しているが、そのメカニズムは不明である。
そこで、MLX56様タンパク質(MLX56およびMLX56同様にクワ乳液に含まれることが後に判明したMLX56と酷似したタンパク質LA-bの総称)がなぜ昆虫の成長を阻害する活性を持つのか、そのメカニズムを解明する。
成果の内容・特徴
  1. エリサンというガの幼虫に、MLX56様タンパク質を含む餌を食べさせると、餌中濃度が0.01~0.04%と非常に低くても、顕著に成長が阻害される(表1)。昆虫の消化管内には、囲食膜というチューブ状の薄い膜が、食物を包むように存在している。MLX56様タンパク質は、この囲食膜に特異的に結合して肥厚させ、クワの葉を食べたエリサンの消化機能不全を引き起こすと考えられる。
  2. MLX56様タンパク質を含む餌を摂食したエリサンの消化管の横断切片を、光学顕微鏡で観察したところ、本来は極めて薄い囲食膜が腸管断面の1/5を越えるほど厚くなっている(図2)。
  3. 囲食膜は主にキチンでできている。キチンの合成を阻害する薬剤とMLX56様タンパク質を共にエリサン幼虫に食べさせると、MLX56様タンパク質による囲食膜の肥厚は見られず、エリサン幼虫に対する成長阻害活性も確認されない(表1)。また、クワを消化できるカイコにMLX56様タンパク質を与えた場合にも、囲食膜の肥厚や成長阻害は見られない。このことから、MLX56様タンパク質の作用による囲食膜の肥厚がエリサン幼虫の消化機能を低下させ、その結果としてクワを利用できないエリサンの成長が阻害されると考えられる。
  4. MLX56様タンパク質はHevein領域とExtensin領域という特徴的な構造を含むが、MLX56様タンパク質はそのHevein領域で囲食膜のキチンに結合し、Extensin領域が持つ膨潤効果で囲食膜を顕著に肥厚させる(図3)。
  5. 囲食膜に結合して肥厚させることで昆虫の消化機能不全を引き起こすという昆虫食害耐性メカニズムは、これまでに報告されたことがない全く新しいタイプのものである。
成果の活用面・留意点
  1. ヒトにはキチンが存在しないためMLX56様タンパク質は安全性が高いと考えられる。
  2. 今後はMLX56様タンパク質を利用した新たな害虫防除技術の開発を通じて、農作物保護に活用できる。
URL http://agriknowledge.affrc.go.jp/RN/3010029839
カテゴリ カイコ 害虫 コスト 抵抗性 防除 薬剤

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