鳥類に優しい水田がわかる生物多様性の調査・評価マニュアル

タイトル 鳥類に優しい水田がわかる生物多様性の調査・評価マニュアル
担当機関 (国研)農業・食品産業技術総合研究機構 農業環境変動研究センター
研究課題名
研究期間 2013~2018
研究担当者 池田浩明
片山直樹
馬場友希
大久保悟
楠本良延
田中幸一
嶺田拓也
竹村武士
渡部恵司
上野高敏
大河原恭祐
小笠原宣好
大迫義人
鹿野雄一
佐藤智
内藤和明
夏原由博
松尾光弘
水口亜樹
八尾充睦
山口典之
山下奉海
発行年度 2018
要約 水田を利用するサギ類とその餌生物を新たに指標化することで、2012年度マニュアルより簡易に調査できるだけでなく、包括的に水田生態系全体の生物多様性を評価できる。
キーワード 生物多様性、水田、環境保全型農業、指標生物、定量的評価
背景・ねらい 化学農薬・肥料の使用を半分以上削減した環境保全型農業など、環境に配慮した取り組みが全国的に増えてきているが、その取り組みによって生きものがどのくらい保全されるのかは不明なことが多い。これを明らかにするためには、農地における生物多様性の客観的な評価方法を確立する必要がある。この生物多様性を評価する科学的手法として、農業に有用な天敵生物(クモ・昆虫類など)を指標とする評価法を開発し、2012年3月にマニュアルをウェブ公開した(http://www.naro.affrc.go.jp/archive/niaes/techdoc/shihyo/#mokuji1)。
このマニュアルは、三重県御浜町の農業生産団体による特別栽培米の有利販売や、国(環境保全型農業直接支払い制度)、滋賀県(環境こだわり農業)における環境施策の効果検証等のため、広く利用されてきた(配布部数360部、2018年12月31日までのダウンロード数14000回)。その一方で、もっと特徴的で見つけやすく、消費者にもなじみがある指標が多方面から求められており、さらなる指標生物の検討が必要であった。そこで今回、わかりやすく、認知度の高い生物を用いて水田の生物多様性を評価する新たな指標の開発に取り組み、その調査・評価手法のマニュアルを作成する。
成果の内容・特徴
  1. 全国規模の調査に基づき、サギ類などの指標生物を用いて水田における生物多様性の豊かさを評価する手法のマニュアルである(図1)。このマニュアルには、生物の専門家でなくても利用しやすいよう、多数の指標生物の写真とわかりやすい解説が掲載されている。
  2. 評価の基準となる指標生物として、サギ類またはその餌生物から1種類、クモ・昆虫類から1種類を選択し、さらに本田・畦畔の指標植物を調査する(図2)。それらの個体数(植物は指標種の種数)をスコア化(0点~2点)し、その合計スコアで「非常に良い、良い、やや悪い、悪い」の4段階で総合評価を行う(図3)。サギ類は水田生態系の食物連鎖の頂点に位置する生物であるため、生態系の生物全体を把握できる包括的な評価指標となっている。
  3. 水鳥、カエル類ならびに植物において絶滅危惧種などの希少種が見つかった場合は、特典として各指標生物のスコアに1点を加えるが、希少種の調査は専門家の助けが必要なため、必ずしも実施しなくてよい。
  4. 評価結果が低かった場合に取り組みを改善できるように、指標生物ごとに有効な管理方法が記載されている(図4)。
  5. このマニュアルで個別の水田を評価すれば、その結果によって、実施している取り組みによる生物の保全効果がわかるだけでなく、評価結果をお米に貼付した販売等の有利販売にも活用できる。また、国や自治体の環境施策の効果検証、水田で生物の保全活動を営む各種団体の取り組みの評価や「田んぼの学校」等の環境教育の現場でも利用できる。農林水産省が実施している環境保全型農業直接支払交付金の地域特認(夏期湛水水田)では、その効果の検証に本マニュアルの調査方法がすでに使用されている。
成果の活用面・留意点
  1. 普及対象:環境に配慮した水稲作に取り組んでいる生産者、民間企業及び自治体
  2. 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等:北海道、南西諸島を除く本州・四国・九州に適用可能。これまでに印刷体500部を配付。2018年5月にプレスリリース(http://www.naro.affrc.go.jp/publicity_report/press/laboratory/niaes/080882.html)したところ、新聞6紙に記事が掲載された。
  3. その他:農研機構のウェブサイトでマニュアルのPDFをダウンロードできる。
カテゴリ 水田 水稲 農薬 評価法