ヒト疾患の研究に応用可能なミトコンドリア機能低下モデルカイコの開発

タイトル ヒト疾患の研究に応用可能なミトコンドリア機能低下モデルカイコの開発
担当機関 (国研)農業・食品産業技術総合研究機構 生物機能利用研究部門
研究課題名
研究期間 2015~2017
研究担当者 笠嶋めぐみ
内野恵郎
笠嶋克巳
遠藤司
田中博光
飯塚哲也
瀬筒秀樹
発行年度 2017
要約 ミトコンドリアの機能を司る遺伝子を遺伝子組換えカイコで強く発現することにより、細胞障害を引き起こすことが可能になる。このカイコは、ミトコンドリア機能低下によって引き起こされるヒトの疾患モデルとして応用可能であり、新たな創薬ツールとなる。
キーワード 遺伝子組換えカイコ、病態モデル、薬剤スクリーニング、ミトコンドリア、TFAM
背景・ねらい カイコの新たな利用法として、動物愛護の観点やコストの問題から、マウスやラットに替わるようなヒト疾患モデルとしての利用が期待されている。そこで、本研究では、新たなニーズに対応するため、新ヒト疾患モデルとなる遺伝子組換えカイコを開発する。
ミトコンドリアは細胞のエネルギー生産に必須の細胞小器官であり、ミトコンドリアの機能低下によって様々なヒト疾患が起こることが近年報告されている。ヒト疾患の病態解析や予防・治療薬開発のためには、動物モデルが必要だが、ミトコンドリア機能障害によって個体が死んでしまうため、安定した疾患モデル動物の開発は困難である。一方、カイコの絹糸腺はシルク合成器官であり、細胞死によって組織が消滅しても個体の生存に影響しないので、絹糸腺のみでミトコンドリア機能障害を生じさることができれば、生存可能な疾患モデルになりうる。本研究は、遺伝子組換えカイコによる外来遺伝子発現系を用いて、絹糸腺のみでミトコンドリア障害を引き起こすヒト疾患モデルカイコの作出を目指す。
成果の内容・特徴
  1. ミトコンドリアの機能を司るタンパク質としてTFAM(Transcription factor A, mitochondrial)が知られ、ヒト等哺乳動物のTFAMは、ミトコンドリアDNA(mtDNA)に結合して安定化することでDNAコピー数を調節する。カイコのTFAMであるBmTFAMも同様のmtDNAのコピー数維持機能を持っている(図1)。
  2. ヒト培養細胞では、TFAMの阻害(ノックダウン)でミトコンドリアの機能が低下するが、BmTFAMを発現させると機能が回復する。このことから、BmTFAMによるカイコのミトコンドリア機能の調節機構は、ヒトにおける調節機構と同様と考えられる。したがって、カイコはヒトのミトコンドリア機能を解析するためのモデルとして利用可能である。
  3. カイコの全身での外来遺伝子発現系を用い、BmTFAMを全身で過剰発現させると若齢幼虫期に致死となる。このことは、BmTFAMの過剰発現によるミトコンドリア機能の低下が細胞障害を引き起こす結果だと考えられる(図2)。
  4. カイコの絹糸腺での外来遺伝子発現系を用い、BmTFAMを絹糸腺で過剰発現させると、絹糸腺が脆弱になり、ミトコンドリアの形態異常を伴う細胞障害が生じる。このカイコに、臨床試験中のヒト疾患治療薬を投与すると、絹糸腺の細胞障害が回復する(図3)。
成果の活用面・留意点
  1. ミトコンドリア機能異常は妊性低下も引き起こしやすいため、動物モデルの系統化が難しい。本研究は、交雑個体のみで外来遺伝子が発現する系を用いており、個体の致死の回避に加え、系統化も容易にできる。生殖巣だけで発現させれば不妊化も可能となる。
  2. 本研究の遺伝子組換えカイコは、ミトコンドリア障害のヒト疾患の新規治療薬の探索や、既知治療薬候補の薬効評価に利用出来る。
  3. カイコは、マウスと比較して、動物愛護の問題が少なく、飼育スペースや維持管理コストを大幅に抑制できる。また、個体の大量調整も可能である。さらに、人畜共通感染症等の対策が不要であるため、代替モデル動物としての今後の利用拡大が期待できる。
カテゴリ カイコ コスト 薬剤

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