塩味を想起する香りとその記憶

タイトル 塩味を想起する香りとその記憶
担当機関 (国研)農業・食品産業技術総合研究機構 食品研究部門
研究課題名
研究期間 2015~2017
研究担当者 河合崇行
日下部裕子
和田有史
発行年度 2017
要約 香りにより塩味強度を増強しうるという現象を、動物行動学実験を用いることで再現できる。幼少期のマウスに香りと味の任意な組み合わせの体験をさせることで、香りが記憶され、その効果には食経験の寄与度が大きいことが明らかとなる。
キーワード 香り、塩味増強、塩味評価、錯覚、食経験
背景・ねらい 高血圧症を始めとする生活習慣病の予防に向け、世界規模での減塩への取り組みが進んでいる。香り付けによる塩味強さ感覚の制御についての研究も進んでおり、塩味の強い食品の香りに塩味を想起する力が強いことや、塩味を想起させる香りには食文化による違いがあることなどが示されている。香りは直接的に味受容細胞を刺激するわけではなく、香りは嗅覚受容体から嗅覚神経、味は味覚受容体から味覚神経を介して脳へ伝えられる。香りと味が組み合わされることにより、味の強さ感覚が変化するには、脳内での統合処理が必要であるが、これは錯覚の一種であるため、この現象を従来の化学分析機器で評価することは難しい。本研究では、動物行動学実験により、香りによる塩味強度の感覚の変化を数値化・比較検討することを目指している。また、食経験の重要性に着目し、どのような香りであっても塩味食品と連合学習することによって、塩味増強効果のある香りと成り得るのか、あるいは、塩味増強効果を発揮しやすい香りがあるのかを調べる。
成果の内容・特徴
  1. 塩味刺激と香り刺激の組み合わせ等、2種の刺激の組合せの関連性を学習することを連合学習と呼ぶ。香りと味の関わりに関する記憶を持たない仔マウスに対し、通常塩味をイメージできないと考えられているバニラ、オレンジの香りを付けた食塩水を摂取させると、3週間で塩味と香りの連合学習が獲得され、香りのない食塩水よりも香りのある食塩水の方を好むようになる。定量的手法により塩味の強さ変化を数値化することにより、香りを添加することによって1.6~1.9倍程度に塩味が強められていることが示される(図1 a、b)。
  2. 仔マウスの時期において香りと甘味の連合学習を用いると、学習した香りによる甘味増強が認められる。通常甘味をイメージできるバニラの香りであっても、イメージできないオレンジの香りであっても、同程度の効果が見込まれる。A群のマウスには、バニラの香りを付けた砂糖水とオレンジの香りを付けた食塩水を摂取させている。B群のマウスには、オレンジの香りを付けた砂糖水とバニラの香りを付けた食塩水を摂取させている(図2)。
  3. 特定の香りと特定の味が連合しているのかどうかを確かめるために、甘味と連合学習した香りを添加した食塩水に対する嗜好変化を調べる。マウスにとって経験済みで好ましい味と連合した香りであっても、塩味と連合学習されたものでなければ塩味を強めることはない(図3)。
  4. 通常塩味をイメージできるベーコンの香りと塩味の連合学習をさせた場合と、イメージできないバニラの香りと塩味の連合学習をさせた場合との塩味増強の大きさは同程度である。C群のマウスには、ベーコンの香りを付けた食塩水を摂取させている(図1 c)。
成果の活用面・留意点
  1. 過去の食経験・記憶が関与することが示唆されることが、世界に共通する塩味増強効果を有する香りを探し出すことの難しさにつながっている。しかし、逆に特定地域において摂取される食品、特に塩味の強い発酵食品などから得た香り成分は、その地域において、塩味感覚を増強させるが効果が高いことが予想される。
  2. 仔マウスの時期の味・香り経験が成熟後の試験においても影響することから、ヒトでも幼少期によく食した塩味食品・塩味菓子類の中から塩味増強効果を示す香りが見つかる可能性がある。ただし、時代による変化もあるので、一定の幅をもった年齢層にのみ効果が限定される可能性もある。
URL http://agriknowledge.affrc.go.jp/RN/3010029365
カテゴリ 香り成分 バニラ

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