小笠原で急速に広がる樹木病害「南根腐病(みなみねぐされびょう)」の防除に向けた実態解明

タイトル 小笠原で急速に広がる樹木病害「南根腐病(みなみねぐされびょう)」の防除に向けた実態解明
担当機関 (国)森林総合研究所
研究課題名
研究期間
研究担当者 太田 祐子
服部 力
佐橋 憲生
秋庭 満輝
升屋 勇人
発行年度 2016
要約 近年小笠原諸島では南根腐病による樹木の枯死が拡大しており、大きな問題になっています。その防除法開発に向けて、病原菌の分布、由来、伝播様式、被害の発生しやすい環境を明らかにしました。
背景・ねらい 近年、小笠原諸島の樹木が次々に枯死しています。これは、シマサルノコシカケというきのこによって引き起こされる病気、「南根腐病」が原因です。調査の結果、南根腐病は小笠原諸島内の各地で発生しており宿主範囲も広範であるものの、植生によって発生しやすさに差があることがわかりました。病原菌の遺伝的多様性が高いことから、この菌は侵入種ではなく元々小笠原に生息していた菌であると推測されました。近年の急激な被害拡大には何らかの環境変化が関わると考えられました。

宿主
菌類などの寄生または共生の対象となる生物。
成果の内容・特徴 南根腐病とは
近年、南西諸島および小笠原諸島などの亜熱帯域の島々において、「南根腐病」の被害が広がっています。南根腐病はサルノコシカケの仲間であるシマサルノコシカケが引き起こす病気で、被害木は根が腐り、多くの場合枯死にいたります。日本以外では、東南アジア、アフリカ、中南米等の熱帯および亜熱帯地域において、プランテーションの栽培樹木、街路樹、公園の緑化木など人為影響の大きい環境下で植栽された樹木を中心に被害が報告されています。
小笠原では固有種や希少種といった貴重な樹種にも被害が広がっているため、いかに被害を軽減するかが大きな課題になっています。しかし、被害対策に当たっては、小笠原に多数生息する貴重な生物の保全にも十分配慮した方法が必要です。こうした地域では、薬剤を使用するのではなく、病原菌の特性や生態を上手に利用した環境に悪影響を与えない病気の管理が求められています。

被害実態と菌の伝播様式
小笠原諸島では、父島、母島、兄島、弟島で南根腐病の被害が確認され(図1)、特に父島と母島ではほぼ全域から被害が見つかりました。宿主樹木の種類を調べたところ、固有種15種を含む29科41種(1草本植物含む)という多様な樹種に病気を引き起こすことが明らかになりました。しかしながら、病気はどこにでも発生する訳ではなく、病気の発生しやすい植生としにくい植生があること(図2)、すなわち南根腐病の発生には環境要因が関わることが分かりました。
小笠原の南根腐病は急激に被害が拡大したことから、最近になって他地域から侵入したのではないかと疑われていました。侵入から間もないとすれば、遺伝子が変化する時間も短いため、その地域の遺伝構造は単純なはずです。そこで、小笠原諸島の父島と母島および南西諸島の個体群の遺伝構造を分析したところ、父島および母島の個体群はいずれも遺伝的多様性が高いことが明らかになりました。南根腐病の病原菌は元々小笠原に分布していて、何らかの環境変化によって近年急激に被害が拡大した可能性が示されました。
病気の伝播様式としては、胞子が飛散することによって伝播する「胞子感染」と、病気の根が健全な根に接触することで感染を広げる「根系感染」の二つの方法をとることがわかりました。胞子は春~秋にかけて長期にわたって継続的に飛散することから、胞子感染リスクの高い期間が長いことも明らかになりました。

防除法開発に向けて
本研究で南根腐病の被害拡大には、環境要因が関わっていること、胞子による感染の危険性が高いことなどがわかってきました。今後、被害の発生しやすい環境要因や菌の生態について解析を進め、環境に悪影響を与えることなく南根腐病から小笠原の貴重な樹木を守る手法の開発に活かします。

本研究は、JSPS 科研費JP25292096)「亜熱帯島嶼域における南根腐病菌の病理学特性の解明とその制御」および公益社団法人発酵研究所一般助成金による研究成 果です。

詳しくは、Akiba et al.(2015) PLOS ONE 10 (10):e0141792、及び、Sahashi et al.(2015) Australasian Plant Disease Notes 10:33 をご覧ください。
URL http://agriknowledge.affrc.go.jp/RN/3010028288
カテゴリ 亜熱帯 根腐病 防除 薬剤

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