数理モデルに基づく水田からのメタン排出量算定方法の開発

タイトル 数理モデルに基づく水田からのメタン排出量算定方法の開発
担当機関 (国)農業環境技術研究所
研究課題名
研究期間
研究担当者 麓 多門
発行年度 2015
要約 [ポイント]
  • 農環研で開発した数理モデル(DNDC-Rice モデル)を用いて、水田からのメタン排出量を推定する新たな算定方法を開発しました。 
  • この算定方法は『日本国温室効果ガスインベントリ報告書』に採用され、日本の全水田からのメタン排出量を国連条約に基づいて報告するために使われています。

[概要]
    1. 水田の有機物施用や水管理によるメタン発生量の変化を推定する数理モデル(*1)である DNDC-Rice モデルを用いて、我が国地域別・排水条件別・水管理方法別に、有機物施用量を 独立変数とした排出係数(*2)を決定する予測式を導き、全国の水田からのメタン排出量を算定する新たな方法を開発しました。
    2. この算定方法は、2015 年版の『日本国温室効果ガスインベントリ報告書』に従来よりも高度な算定方法として採用され、日本全国の水田からのメタン排出量を算出し、国連気候変動枠組条約締約国会議に提出するために使われています。

*1   数理モデル:関心のある現象をコンピュータで予測できるように数式で表したものを「数理 モデル」と呼びます。気象、経済、工学、物理、化学など、様々な対象について多数の数理 モデルが開発され使われています。
*2  排出係数:生産量、使用量、焼却量など、温室効果ガス排出活動の規模を表す指標を「活動 量」と呼び、活動量当たりの温室効果ガス排出量を「排出係数」と呼びます。例えば、水田 の面積が活動量に相当し、水田 1 ヘクタール当たりのメタン排出量が排出係数に相当します。
背景・ねらい メタンは、その地球温暖化に対する寄与が二酸化炭素の約 6 割に相当する重要な温室効果ガスです。湛水された土壌中では有機物の嫌気的分解によってメタンが生成されるため、水田はメタンの排出源になります。世界の水田からのメタン排出量は、全メタン排出量の 10%以上を占めると推定されています
国連気候変動枠組条約(UNFCCC)や京都議定書の下、日本を含めた UNFCCC 附属書 I 締約国 は、毎年、『温室効果ガスインベントリ報告書』を締約国会議に提出することが義務付けられています。国全体の温室効果ガスインベントリ(*3)を正確に求めることは、世界的な気候変動の予測や温暖化緩和策・適応策を議論するために極めて重要な情報となります。
従来の『日本国温室効果ガスインベントリ報告書』では、土壌タイプ(5種類)、有機物の種類 (稲わら・堆肥・無施用)、水管理(中干しあり・常時湛水)で決まる排出係数を使って水田からのメタン排出量を算出していました。しかし、この方法では、有機物の量の影響や地域で異な る気候の影響を反映できない等の短所があり、最新の国際標準である IPCC ガイドライン(*4)に適合しないため、より精緻な算出方法が求められていました。

*3  温室効果ガスインベントリ:それぞれの国が 1年間に排出あるいは吸収した温室効果ガス (二酸化炭素、メタンなど)の量を指します。気候変動に関する国際連合枠組条約 (UNFCCC)や京都議定書の下で、締約国は自国の温室効果ガスインベントリを作成し、公 表する義務を負っています。
*4  IPCCガイドライン:気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が作成した、温室効果ガスインベ ントリ作成のための標準手法を記載したガイドライン。現在、世界各国は 2006年版ガイドラ インを使用することが求められています。
成果の内容・特徴
  1.  農環研では、水田からのメタン排出量をコンピュータで精度良く推定できる DeNitrificationDeComposition-Rice モデル(DNDC-Rice モデル)を開発してきましたが(図1、2)、全国規模の計算を行なうには専門家による大型コンピュータを用いた計算が必要であるなど、温室効果ガスインベントリを算定する上で短所がありました。そこで、DNDC-Rice モデルによるシミュレーションに基づきながら、なるべく簡便にメタン排出量を算出する手法を考案しました。
  2. 農林水産省事業に基づく我が国の農耕地土壌情報データベースから全国 986 地点の水田を抽出し、水管理と有機物管理のシナリオを変えながら、DNDC-Rice モデルで 30 年間のメタン排出量を計算しました。それらを統計解析した結果、地域別・排水条件別・水管理方法別の平均メタン排出量は、有機物施用量を独立変数とする 1 次関数で近似できることを明らかにしました(図3、表1)。
  3. これらの排出予測式を用いて日本の水田からのメタン排出量を算出するため、各種の統計データやアンケート結果から地域別・排水条件別・水管理方法別の水田面積を求めました。また、統計データから地域別の有機物施用量を求め、メタン排出予測式に代入して排出係数を算出しました。そして、地域別・排水条件別・水管理方法別の水田面積に排出係数を乗じて合計し、日本の全水田からのメタン排出量を算出しました(図4)。
  4.  上記の手法で算出したメタン排出量を従来の温室効果ガスインベントリと比べると、2倍以上の値になりました。本手法は、水田からのメタン排出に関係するより多くの要因を考慮しているため、最新の国際標準に適合するより高度な算定方法であると考えられます(図4)。
成果の活用面・留意点
  1. 本研究で開発したメタン排出量算定方法は、2015年版の『日本国温室効果ガスインベントリ報告書』に採用されました。今後、環境省が毎年作成し UNFCCC事務局に提出する同報告書において、水田からのメタン排出量を算出するために活用されます。
  2. 今後は、温暖化緩和策として検討されている施用有機物の転換(わらから堆肥へ)や中干し日数の延長によるメタン削減効果を反映できるように、圃場試験データ等を基に排出予測式をさらに精緻化する予定です。
URL http://agriknowledge.affrc.go.jp/RN/3010028233
カテゴリ 水田 データベース 水管理

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