幼穂形成前の低水温が穂ばらみ期の水稲穎花の耐冷性を低下させる分子機構

タイトル 幼穂形成前の低水温が穂ばらみ期の水稲穎花の耐冷性を低下させる分子機構
担当機関 (独)農業・食品産業技術総合研究機構 東北農業研究センター
研究課題名
研究期間 2009~2014
研究担当者 鈴木健策
青木直大
松村尚和
岡村昌樹
大杉立
下野裕之
発行年度 2014
要約 穂ばらみ期に冷害処理(12°C、5日間)した水稲では、穎花の低分子量型HSP及びその制御因子と推定される蛋白質群の遺伝子発現が著しく高まる。しかし幼穂形成の前に低水温処理(18°C、14日間)をするとそれが起らず、異常花粉率と不稔率が共に倍増する。
キーワード イネ、障害型冷害、ストレス耐性、低水温履歴、熱ショックタンパク質
背景・ねらい イネでは、花粉の形成過程のうちの小胞子初期(四分子期から小胞子前期)という限られた期間(穂ばらみ期)が、20°C以下の低温に弱く、障害型冷害の原因となる。下野と岡田は、穂ばらみ期の低温感受性は、穎花(幼穂)が分化する前の水温に影響を受け、その水温が高いと穎花の耐冷性が強くなることを屋外実験で明らかにした(2005年成果情報)。本研究ではそのメカニズム解明のため、生育期間が短く穂ばらみ期に強い耐冷性を示す品種「はやゆき」を人工気象室で生育させ(図1)、穂ばらみ期冷害処理時の生理機能や遺伝子発現に及ぼす幼穂形成前の低水温の影響を調べる。
成果の内容・特徴
  1. 低水温履歴では穂ばらみ期(小胞子初期)の冷害処理により、非充実花粉(異常花粉率)と穎花(籾)の不稔率が倍増する(図2)。
  2. 低水温履歴では穂ばらみ期の冷害処理により、葯のMDA 当量(過酸化脂質含量)が上昇すると共にアスコルビン酸ペロキシダーゼ(APX)活性が低下し、活性酸素の増加と葯の耐冷性低下の関係が示唆される(図3A、B)。
  3. 低水温履歴では穂ばらみ期の冷害処理により、葯の主要APX遺伝子の一つOsAPX2の発現が著しく低下する。OsAPX2の正常な発現は花粉の稔性に必須とされており、異常花粉率上昇(耐冷性低下)の一因と考えられる(図3C)。
  4. 穂ばらみ期の冷害処理により遺伝子発現が著しく上昇する穎花タンパク質の多くで、低水温履歴では上昇が認められない(あるいは低下する)。特に、熱ショックタンパク質(HSP)の低分子量型(OsHSP80.1等)と、その調節への関与が推定されるタンパク質(OsFKBP65、OsHSP90.1等)でこの型の応答が顕著であり発現量も多い(図4)。
  5. これらの結果は、イネの穂ばらみ期の葯の耐冷機構には、低分子量型HSP群とその制御因子に依存したタンパク質保護機構が、APX等に依存した活性酸素消去機構と共に必要であることを示す(図3、4)。しかし「低水温履歴」では、タンパク質保護機能の喪失と活性酸素消去機能の低下により花粉形成に障害を起こし、不稔率が上昇すると考えられる。
成果の活用面・留意点
  1. 幼穂形成前から高水温を維持した栽培管理法の適用あるいは突然変異体や遺伝子組換体の作出により、葯内のOsFKBP65あるいはOsHSP90.1の高発現を維持することで、穂ばらみ期の葯の耐冷性の改善が期待できる。これと似たしくみが低温耐性に関与するとの報告はこれまでない。
  2. シロイヌナズナでは、OsFKBP65のホモログのFKBP62が高温耐性に重要であり、HSP90.1や低分子量型HSP 群等との密接な関係が報告(Meiri et al. 2009, Plant J. 59:387-399)されていること等から、高温ストレス耐性の改善も期待できる。
URL http://agriknowledge.affrc.go.jp/RN/3010028061
カテゴリ 高温耐性 栽培技術 水稲 耐寒性 凍害 品種

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