タイトル | 心材の含水率が低いトドマツ品種の開発 |
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担当機関 | (独)森林総合研究所 |
研究課題名 | |
研究期間 | |
研究担当者 |
田村 明 中田 了五 福田 陽子 矢野 慶介 井城 泰一 生方 正俊 山田 浩雄 |
発行年度 | 2015 |
要約 | 心材含水率が遺伝的に少ない「材質優良トドマツ品種」5品種を開発しました。これらの品種を生産・普及することで、将来の乾燥等のコスト削減と材の高付加価値化が期待できます。 |
背景・ねらい | トドマツは、北海道では最も蓄積が多い樹種です。カラマツに次いで主伐期を迎えつつあり、造林量もカラマツに次ぐ北海道の主要な造林樹種です。ただし、トドマツには高い含水率の心材をもつ「水食い材」がみられることがあり、乾燥等のコストがかかるため、材の利用価値を低下させる原因になっています。北海道の西部地域で遺伝的に心材含水率が少ない「材質優良トドマツ品種」5 品種を開発しました。これらの品種から生産される種苗で造林を行うことによって、将来の乾燥等のコスト削減と材の高付加価値化が期待できます。 |
成果の内容・特徴 | 水食い材とは 何らかの原因で多量の水分が心材に集積している材のことを、水食い材といいます。冬季にトドマツを伐採した木口をみると、水分が集積した部分(水食い)が大きい個体の心材は、飴色の部分が多くなっているのに対して、水食いがほとんどない材の心材は、乾いて白い部分が多くなっています(写真1)。 トドマツの現状と品種開発の必要性 トドマツ材の利用は約6 割が建築用であり、残り4 割がパルプチップ用です。建築用では、その約6 割が羽柄材※や板類として利用されています。その理由は、トドマツの心材では、含水率の高い水食い材が生じることがあるため、小断面で乾燥しやすい羽柄材のような板類で利用する方が有利だからです。また、水食い材の程度が激しいとパルプチップ用の丸太としての利用となり、市場価格が、1m3 当たり4,000 ~ 5,000 円程度で建築用の丸太の半額以下となってしまいます。このため、伐採による収入が低下し、森林所有者の伐採跡地の再造林意欲を著しく損ねるリスクもあります。このようなことから、トドマツの水食い材の欠点を改良することができれば、トドマツを付加価値の高い用途で利用できるようになり、持続的な林業経営と人工林材の安定供給、木材産業の振興に貢献することができると考えられます。 水食い材の低減に向けた「材質優良トドマツ品種」の開発 心材含水率は伐倒しないと測定できません。そこで、まず、立木状態で非破壊的にトドマツの心材含水率を推定する方法を開発しました(写真2)。次に、この方法を使って北海道の西部地域にある約25 年生の精英樹※の実生検定林3 カ所にある86 家系1,395 本の心材含水率を測定し、精英樹ごとの心材含水率を求めました。これに、樹高と胸高直径※の成長データの解析結果を併せて、心材含水率が小さく成長が平均以上の精英樹を「材質優良トドマツ品種」として5 品種開発しました(表1)。 開発された品種の改良効果と利用 開発品種から生産された種苗を使うことで、どの程度心材含水率が改良されるかを試算してみました(表1)。この結果、最大12%の改良効果があると試算されました。また、開発品種を活用した山作りを行うことにより、造林地における「水食い材」の割合が相当小さくなるとの予備的な試算結果が得られています。今回の品種開発は、林業経営の改善につながるとともに、今後人工乾燥(KD)材※が主流となる中で、製材工場等の経営改善にも貢献できると期待しています。 また、表1 には、開発品種が植栽されている採種園を記載しました。これらの採種園において開発品種から種子を選択的に採取することによって、開発品種の種苗の普及を開始できると考えています。 ※羽柄材 柱や土台などの構造材と、表から見える部材の間にある節や色にこだわらない材。 ※精英樹 品種改良や優良種苗の生産を目的として、主として人工林から成長等が優れた個体を選抜したもの。スギでは、北海道~九州の国有林と民有林から約3,700 本が選抜されている。 ※胸高直径 胸の高さで測った樹木の直径。 ※人工乾燥(KD)材 乾燥窯(Kiln)等の乾燥機を用いて人工的に乾燥させた(Dried)木材。強度や形状の安定性の観点から、建築用には十分に乾燥した木材が望ましく、KD 材が建築材の主流になりつつある。 |
カテゴリ | 乾燥 経営管理 高付加価値 コスト 品種 品種開発 品種改良 |