スギの器官別発現遺伝子の情報を統合 ~スギの品種改良の高速化に向けて~

タイトル スギの器官別発現遺伝子の情報を統合 ~スギの品種改良の高速化に向けて~
担当機関 (独)森林総合研究所
研究課題名
研究期間
研究担当者 高橋 誠
栗田 学
平岡 裕一郎
井城 泰一
三嶋 賢太郎
坪村 美代子
能勢 美峰
花岡 創
藤澤 義武
渡辺 敦史
田村 美帆
発行年度 2014
要約 スギについて、器官別、時期別に発現している遺伝子の情報を網羅的に収集し、それらの情報を統合することにより、ゲノム情報を活用して優良個体選抜のための特性評価に要する期間を短縮する、育種の高速化を推進するための基盤情報を整備しました。
背景・ねらい スギの成長、材質、雄花着花に関係すると考えられる各器官から、時期別に発現 * している遺伝子の部分配列情報を収集し、それらを統合することにより、遺伝子がどの時期にどの組織で発現しているかを明らかにしました。また、発現遺伝子 * の塩基配列を異なる個体で比較することにより、一塩基多型(SNP( スニップ)) * を同定し、SNP マーカーの開発に着手しました。これら発現遺伝子の情報、開発されたSNP マーカー等は、スギの育種の高速化を推進するための基盤情報です。今後はこれらの情報を活用し、遺伝子機能の解明や材形成、雄花形成といった生理プロセスの解明等を進め、育種目標に適したDNA マーカーの選定や、それを用いた優良個体の早期選抜技術の開発を進め、スギの育種の高速化を推進するために活用していきます。

*発現(遺伝子発現)
遺伝子(DNA)の塩基配列として保持されている遺伝情報に基づいてタンパク質が合成され、生体内で機能すること。
*発現遺伝子
任意の時期、任意の器官において発現している(機能している)一群の遺伝子をさす。
*一塩基多型
SNP(Single Nucleotide Polymorphism の略)ともいう。任意の遺伝子における突然変異に由来する個体間での一塩基の違い(変異)。
成果の内容・特徴

スギの品種改良の高速化に向けて

スギの遺伝的改良のために、林業上重要な成長や材質といった特性の把握にこれまで20 ~ 30 年の生育期間が必要でしたが、ゲノム情報を活用した育種によってこの期間を短縮することを目的として、スギの発現遺伝子の基盤情報を整備しました。

異なる器官からの発現遺伝子情報の収集

スギの成長や材質、雄花着花性に関係すると考えられる、頂端、針葉、根系、木部、雄花といったそれぞれの器官(図1)から時期別に試料を採取し、それらからRNA を抽出して、RNA から逆転写酵素によりcDNA を作成し、cDNA の塩基配列を解析しました。この塩基配列のことをEST( イーエスティー) * と呼びますが、25 年度までに52 万収集しました。(図2)。これは、世界的にゲノム育種が最も進んでいるテーダマツ等に匹敵する数です。各EST の塩基配列の相同性に基づいて、元の 遺伝子の長い塩基配列情報を再構築しました。これをIsotig( アイソティグ) * といい、ほぼ「遺伝子」全長に近いイメージです。器官ごとのIsotig 数は約5,000 から約14,000 となりました(図2)

遺伝子の発現パターン

Isotig の情報を活用して、器官別の遺伝子の発現パターンの解析を行いました。図3に木部の解析結果を示しました。発現遺伝子は木部の活動期(早材形成期、晩材形成期)と成長休止期で大きく入れ替わっていること等が明らかになりました。このような現象は他の器官でも同様に見られました。

発現遺伝子情報の統合

異なる器官で共通的あるいは特異的に発現している遺伝子を明らかにするため、器官別Isotig を統合しました。その結果(図4)、約22,000 の発現遺伝子には、各器官で特異的に発現しているもの、複数の器官で発現しているものなど、様々なものが見られました。例えば、木部で特異的に発現している遺伝子は約5,600 あり、これらは、木部特有の生物学的事象に関連するものと考えられ、材質形質に関する遺伝子などは、この中にある可能性があります。一方、各器官で共通に発現している遺伝子が約2,600 あり、これらは、樹木の生存に不可欠な代謝関連等の遺伝子であることが考えられます。
さらに、発現遺伝子の塩基配列を異なる個体で比較することにより、Isotig からSNP を同定し、SNP マーカーの開発に着手しました。
統合された発現遺伝子の情報は、効率的なSNP マーカーの開発や遺伝子機能の解明、材形成や雄花形成といった生理プロセスの解明等に活用し、今後のマーカー選抜等に向けての研究を加速する考えです。またこれら基盤となる情報を利用し、育種目標に適したDNA マーカーの選定、マーカーを指標とした優良個体の早期選抜技術の開発を進め、従来、長期間を要していた特性評価にかかる期間を短縮すること等によって、育種の高速化を推進していきます。

本研究は、「林木育種の高速化及び多様なニーズに対応するための育種技術の開発」及び農林水産技術会議委託研究プロジェクト「新世代林業種苗を短期間で作出する技術の開発」による成果です。スギの木部における遺伝子発現についての詳細については、Mishima et al.(2014) BMC Genomics 15:219をご覧下さい。

*EST
Expressed Sequence Tag の略称。発現遺伝子の一部分の塩基配列情報。
*Isotig
塩基配列の相同性に基づいて複数のEST から元の長い塩基配列情報を再構築したもの。
URL http://agriknowledge.affrc.go.jp/RN/3010027567
カテゴリ 育種 ゲノム育種 DNAマーカー 品種改良

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