タイトル |
殺虫性タンパク質に抵抗性を示す昆虫遺伝子の同定 |
担当機関 |
(独)農業生物資源研究所 |
研究課題名 |
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研究期間 |
2005~2012 |
研究担当者 |
渥美省吾
宮本和久
山本公子
生川潤子
河合佐和子
瀬筒秀樹
小林 功
内野恵郎
田村俊樹
三田和英
門野敬子
和田早苗
野田博明
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発行年度 |
2012 |
要約 |
微生物殺虫剤(BT剤)として利用されている殺虫性タンパク質(Bt毒素)に対する抵抗性遺伝子をカイコで同定した。消化管で働くABCトランスポータータンパク質にアミノ酸1個が挿入されると、カイコはBt毒素抵抗性になることがわかった。
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キーワード |
BT剤、Bt毒素、Cry1Ab、カイコ、抵抗性遺伝子、ABCトランスポーター
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背景・ねらい |
昆虫病原細菌Bacillus thuringiensisが作る殺虫性タンパク質(Bt毒素、図1)は、昆虫に対して特に効果が高くヒトや家畜に無害なことから、殺虫剤(BT剤)や、耐虫性遺伝子組換え作物(Bt組換え作物)に広く利用されている。しかし、BT剤を連続して使用すると、他の農薬と同様、BT剤に抵抗性を示す害虫が発生し問題となる。そこで、チョウ目でゲノム解析が最も進んでいるカイコを用いて抵抗性遺伝子を究明し、抵抗性が出現したチョウ目害虫のBT剤抵抗性遺伝子の特定と解析に活用する。
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成果の内容・特徴 |
- 生物研が保存しているカイコ系統のうち、Bt毒素の一種であるCry1Ab毒素に感受性の輪月と抵抗性の支2号とでは、感受性が300倍以上も異なっていた。両系統の交配実験及び戻し交雑により得られた抵抗性個体のゲノム解析から、抵抗性遺伝子は劣性の遺伝子で第15番染色体上にあることがわかった。
- カイコのゲノム情報を利用したポジショナルクローニング法により、ABCトランスポーター(ABCC2)遺伝子が抵抗性に関わると推測された。ABCC2遺伝子は、毒素の作用部位である消化管の細胞のみで発現していた。
- 抵抗性と感受性を示す複数の系統で、ABCC2遺伝子を比較したところ、抵抗性系統では、推定されるアミノ酸配列にチロシンというアミノ酸が一つ余分に入っており、これが感受性を抵抗性に変えた原因であると考えられた(図2)。
- ABCC2遺伝子の抵抗性への関与を確認するため、遺伝子組換え技術を用いて、感受性カイコのABCC2遺伝子を抵抗性カイコに導入して働かせ、その幼虫にBt毒素を食べさせた。その結果、形質転換カイコは全て死に、抵抗性の形質が感受性に変化したことがわかった(図3)。すなわち、抵抗性の原因はABCトランスポーター(ABCC2)遺伝子の変異であることが証明された。
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成果の活用面・留意点 |
- Bt毒素が殺虫作用を示す上で、ABCトランスポーターがどのような働きをし、アミノ酸(チロシン)1個の挿入が抵抗性とどう関わるのかを明らかにすることで、まだ不明な点の多いCry毒素の作用の解明に寄与する。
- 今回証明した抵抗性遺伝子(ABCC2遺伝子)に関しては、すでにコナガを始め一部の害虫で抵抗性への関与を示唆する報告が出ている。害虫のBt毒素抵抗性遺伝子が解明されれば、防除対象の害虫がBt毒素に抵抗性か否かを遺伝子解析により簡便にモニタリングする技術の開発に役立つと期待される。
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URL |
http://agriknowledge.affrc.go.jp/RN/3010026150 |
カテゴリ |
カイコ
害虫
抵抗性
抵抗性遺伝子
農薬
防除
モニタリング
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