DNA解析により桜の伝統的栽培品種を識別する

タイトル DNA解析により桜の伝統的栽培品種を識別する
担当機関 (独)森林総合研究所
研究課題名
研究期間
研究担当者 加藤 珠理
松本 麻子
吉村 研介
吉丸 博志
勝木 俊雄
岩本 宏二郎
石尾 将吾
中村 健太郎
発行年度 2011
要約 我が国には200種類を超えるサクラの伝統的栽培品種があります。祖先が育てた栽培品種を正しく継承して、将来の利用に役立てていくため、DNAマーカーによる精度の高い品種識別技術を開発しました。
背景・ねらい 我が国に自生する野生のサクラは10種ですが、それらを基にして作出された、美しい花を咲かせる栽培品種が200種類以上もあります。古くは室町時代から知られているものもありますが、品種改良が盛んになったのは江戸時代以降です。接ぎ木や挿し木などのクローン増殖により代々保存されてきましたが、長い年月の間には継承の間違いなどもあったと思われ、同名異種や異名同種などが疑われるものもあります。長い歴史をもつサクラの栽培品種を正しく継承して、将来の利用につなげていくために、DNAマーカーによる高い精度の識別技術の開発とそれによる品種識別を行いました。
成果の内容・特徴

遺伝マーカーの開発と桜の主要コレクション

ヤマザクラやエドヒガンなど野生種のDNAを基にして、多型性の高い遺伝マーカーであるマイクロサテライトマーカーを開発し、そのうち17個のマーカーを用いて栽培品種の識別を行いました。国内には栽培品種を多数収集しているコレクションがありますが、その中でも、森林総合研究所多摩森林科学園(図1)の約1500本(約300栽培系統)は最大規模のものであり、さらに国立遺伝学研究所に収集されている約350本(約250栽培系統)と新宿御苑の約1300本(約50栽培品種)を加えた中から、約1850本を材料として、遺伝マーカーによる識別を行いました。同じ品種名でも由来が異なると別物である可能性もあるので、森林総合研究所や国立遺伝学研究所では、栽培品種名だけでなく入手先の履歴記録も加えた「栽培系統」として厳密に管理しています。

遺伝マーカーによる識別結果の事例

染井吉野(そめいよしの)や八重紅枝垂(やえべにしだれ)などでは、上記の主要3コレクションにおいて、マーカーによる遺伝子型は単一で、各栽培品種の起源は1つであると考えられます(図2)。これに対して、枝垂桜(しだれざくら)や寒桜(かんざくら)、奈良の八重桜(ならのやえざくら)などでは、それぞれの中に複数の遺伝子型が見られ、各栽培品種の起源が複数あると推測されました(図3)。
一方、江戸(えど)、糸括(いとくくり)、大手毬(おおてまり)、八重紅虎の尾(やえべにとらのお)は、別名であるにもかかわらずマーカーによる遺伝子型が等しく、これら4つの栽培品種の起源は同一であろうと推測されました(図4)。江戸という名前があまり有名ではなかったため、各地で異なる名前が付けられたものと思われます。

DNA識別のメリットと今後の利用

今回用いたDNAマーカーは多型性が非常に高く、全く起源の異なる2個体が偶然同じ遺伝子型になってしまう確率は非常に低いものですが(約10兆分の1と推定)、さらにマーカーの数を増やして、識別の精度を上げることが望ましいと考えています。形態による分類では花の観察が必要でしたが、DNA解析は葉や枝でも行うことができますので、苗木でも識別できるという大きなメリットがあります。今後は、全国の栽培品種のデータを蓄積してなるべく全ての品種を識別できるようにし、また野生種等との遺伝的関係から栽培品種の由来を明らかにしていきます。

本研究は「予算区分:森林総合研究所交付金プロジェクト、課題名:サクラの系統保全と活用に関する研究」、「予算区分:財団法人遺伝学普及会研究助成、課題名:国立遺伝学研究所のサクラ系統に関する研究」による成果です。
遺伝マーカーの情報については、Tsuda et al (2009) Journal of Plant Research 122:367-375、および特許出願中「サクラのクローン識別のためのDNAプライマーセット (2010-228445)」をご参照ください。
URL http://agriknowledge.affrc.go.jp/RN/3010026015
カテゴリ くり さくら 挿し木 接ぎ木 DNAマーカー 品種 品種改良

この記事は