アメリカにおける遺伝子組換え作物をめぐる政策動向と規制スタイル

タイトル アメリカにおける遺伝子組換え作物をめぐる政策動向と規制スタイル
担当機関 企画連絡室
研究課題名
研究期間 2004~2006
研究担当者
発行年度 2005
背景・ねらい 本研究では,世界で最も遺伝子組換え作物(GMO)の商業化が進展しているアメリカを取り上げ,規制における特徴を把握すると共に,その見直し動向について明らかにする。またアメリカが行っているGMOに関する途上国支援の概要について述べると共に,アメリカとEUとの規制スタイルの相違がどこから由来しているのかに関して,仮説的な知見について提示する。
本課題では,現地調査および既存の公刊資料,インターネット情報等を分析することで,アメリカにおける規制の特徴や動向等を明かにした。
成果の内容・特徴
  1. アメリカにおける規制体系とその見直し動向
  2. アメリカにおける遺伝子組換え規制は,1986年6月に公表された「バイオテクノロジー規制の調和的枠組み(Coordinated Framework for Regulation of Biotechnology)」に従って,農務省(USDA),環境保護庁(EPA),食品医薬品局(FDA)の3省庁のもとで実施されている。調和的枠組みのもとでのそれぞれの省庁が担当するGMO規制の基本的視点は,以下のように概略的に整理することができる。
    すなわちUSDAは,連邦植物病害法(FPPA)に基づき,作物に対する害虫,雑草,病害の拡大防止の観点からGMO規制を行う。またEPAは,連邦殺虫剤・殺菌剤・殺鼠剤法(FIFRA)に基づき,植物体で生成される農薬成分に対して規制を行う。また組換え微生物に関しても,EPAが有毒物質規制法(TSCA)にもとづいて規制を行う。そしてFDAは,連邦食品・医薬品・化粧品法(FFDCA)に基づき,食品や食品添加物,家畜用飼料,医薬品などの安全性について規制を行う。
    このようにアメリカにおけるGMO規制は新たな法律を制定せず,既存法を拡張解釈しつつ規制を行っているため,非常に複雑な体系となっている。これを商業化前の規制権限と,商業化後の規制権限という観点から整理すると第1表のようになり,根拠となる法律によって省庁が有する規制権限の及ぶ範囲が異なることが分かる。たとえばUSDAは規制解除を行うことで当該GMOの規制権限を喪失し,このため実際の栽培面積を補足できないといった点が生ずる。
    またアメリカ政府では現在GMO規制に対する見直しも進みつつある。このような見直しが進みつつあるのは,これまで想定されていなかったGMO(たとえば,医薬品を産出するGM作物,さらにはGM魚などの動物)が開発されてきたことが背景にある。
    とくにUSDAではこれまでの規制体系について大幅に見直す提案(規制根拠を植物病害から有害雑草にまで拡大,リスク・カテゴリーに対応した規制方式,医薬品・工業原料用GMOの試験方法など)が昨年なされており,その規制改変が環境にもたらす影響について環境影響ステートメントが準備されている。そして最終的には連邦行政規則が改訂されることになっている。またFDAからは,新規タンパクの実験段階での意図せざる混入に関するドラフト・ガイドラインが提案されたところである(2006年6月に正式にガイドラインとして公表)。GM動物に関しても,いまのところFDAは新規動物薬としての規制案が提起されているが,USDAからも規制対象とするために,動物健康保護法(AHPA)のもとでの新たな規則案を今後提案することが見込まれる。
  3. GMO研究開発に関して途上国支援を積極的に実施
  4. アメリカは途上国に対しても,GMOに関して積極的に技術開発援助やバイオセイフティ政策の策定支援を積極的に行っている。具体的にはアメリカ国際開発庁(USAID)が資金を提供し,コーネル大学および国際食料政策研究所(IFPRI)が実施主体となって,Agricultural Biotechnology Support Program II(ABSPⅡ)やProgram for Biosafety Systems(PBS)という事業が進められている(2002~06年)。ABSPⅡは,GMOに関する研究開発支援を行うプログラムであり,PBSは当該国のバイオセイフティ政策に関する策定支援を行うプログラムである。なお,ABSPⅡには,先行プログラムとして,ABSPとよばれるプログラムが存在し,ミシガン州立大学を中心として実施されていた(1991~03年)。こうしたGMOを主眼においた途上国支援は,スウェーデンが実施している比較的小規模なBIO-EARNプログラムを除けば,国際的にみても他にほとんど例がないものであり,今後の途上国におけるGMO商業化の動向を理解する上で注目に値する。それぞれのプログラムへの参加国は,アジア,アフリカ諸国の特定の国々に主として集中しており,継続的にアメリカからの支援対象となっている国もみられる(第2表)。
    またABSPⅡの対象国と品目については,下記のとおりである。ABSPⅡは,下記のように商業栽培の可能性の高い品目に研究を集中させている。
    • キャッサバ(キャッサバモザイク病抵抗性):ウガンダ
    • バナナ(品質改善):ウガンダ
    • サツマイモ(ウィルス病耐性):ケニア,フィリピン
    • トマト(ウィルス病耐性):マリ,ガーナ,インドネシア,フィリピン
    • ナス(耐虫性):インド,バングラデシュ,フィリピン
    • イネ(耐旱性,耐塩性):インド,バングラデシュ
    • バレイショ(Late Blight Resistent):インド,バングラデシュ,インドネシア
    • マメ(Pod Borer Resistent Chickpea):バングラデシュ
    • ナッツ・ヒマワリ(ウィルス病耐性):インド
    • パパイヤ(ウィルス病耐性):フィリピン
  5. GMOをめぐる規制スタイルの形成背景
  6. アメリカとEUのように対照的な規制スタイルが形成されてきた背景として,1980年代におけるGM作物の実用化に関わる政策的検討過程において,どの省庁が主導的官庁となったかが,その後の規制手法に大きな相違をもたらした要因と考えることができる。この時代,アメリカは競争力維持の観点から,新規立法ではなく既存法に依拠した調和的枠組みにより,省庁間の役割分担を整備していった。他方,欧州では欧州委員会のいくつかの部局がそれぞれの立場からGMO政策を進める中で,最終的には閉鎖的利用と環境放出利用という2種類の利用に対応した欧州委員会指令を準備することになり,農作物としてのGMOが関わる後者の指令については環境総局が主務官庁となって策定した。
    この米欧の政策策定過程はある意味で非常に対照的である。なぜならば,アメリカがGMOを既存の産業政策の延長線上に捉え(ここにはGMOが新たなリスクをもつものではないという前提があった),GMOとして独自の規制を新規に導入することがなかったのに対して,欧州ではGMOを新たな生物としてその環境影響評価を産業利用の前に義務づけ,環境的観点からGMO規制を行なうための全く新たな規制を策定することになったからである。特に環境規制においては環境への悪影響を回避するという観点が強まり,予防的なスタンスで規制体系を策定する傾向が一般的に存在するために,その後のGMO利用に対して慎重な姿勢を導入することになったといえる。また農業分野と比較して,環境分野における政策形成に関しては,市民団体からのインプットも多く,こうした市民の意見も政策に反映される機会が多いといえる。この意味で欧州のGMO規制の土台が環境総局によって形成されたことが米欧の相違を決定づけ,その後の対照的な展開をもたらしたということができる。
    このように実用化を「環境放出」と捉え,環境総局が予防的な観点から環境放出指令を策定したEUと,他方,実用化を産業利用と捉え,産業部門ごとの所管省庁の規制を拡大解釈しながら適用してきたアメリカとの間の違いは,所管する省庁あるいは部局(環境保護部局と産業振興部局)の規制スタイルの違いでもある。
    なお,興味深いことにGM作物(とくに環境安全性評価)をどの省庁が主導的に規制しているかは,国ごとに違っており(農業省~アメリカ,カナダ,アルゼンチン,中国等;環境省~EU;科学技術省~ブラジル;新規独立機関~豪州),こうした観点から各国の規制の基本的考え方や手法を把握することが当該国のGMO規制を理解する上で重要であると考えられる。
URL http://agriknowledge.affrc.go.jp/RN/3010019043
カテゴリ 害虫 くこ 雑草 抵抗性 トマト なす ナッツ 農薬 バナナ ばれいしょ パパイヤ ひまわり

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