ブラジルのバイオエタノール・砂糖政策の動向分析

タイトル ブラジルのバイオエタノール・砂糖政策の動向分析
担当機関 国際政策部
研究課題名
研究期間 2005~2005
研究担当者
発行年度 2005
背景・ねらい 国際砂糖市場は2004年2月以降,上昇基調にあり,その最大の要因としてブラジルにおいてさとうきびから製造するエタノールへの配分比率が増加していることに注目が集まっている。ブラジルは世界最大のエタノール輸出国であるとともに,世界最大の砂糖生産国・輸出国として,ブラジル国内の砂糖需給動向は国際砂糖需給動向に大きな影響を与えている。本研究では,ブラジルにおけるエタノール政策,需給動向等を分析することにより,今後の砂糖需給の展望に知見を提供することを目的としている。
2005年11月にブラジルにおいて現地調査を行い,そこで得られた情報を基に,エタノールおよび砂糖に関する政策・需給動向について整理・分析し,今後の政策展開方向と課題について考察を行った。
成果の内容・特徴
  1. ブラジルのエタノール・砂糖政策の経緯と需給動向等
    1. エタノール・砂糖政策の経緯
    2. 1973年の第1次石油危機は,当時,原油輸入依存度の高かった他の国と同様にブラジル経済へ大きな打撃を与えた。このため,石油輸入を抑制し,ガソリンの代替燃料としてさとうきびから生産されるエタノールの使用を拡大することを目的として,1975年には大統領令76,593号に基づき,自動車燃料用エタノール燃料の導入・普及を促進するプロアルコール(PROALCOOL)政策が開始された。
      プロアルコール政策では,エタノールの国内生産の拡大,需要促進を達成するため,政府関係機関による生産者買入価格および消費者売渡価格の固定(補償),新規増設工場への低利融資等が行われた。このため,エタノールの生産も1975/76年度の56万キロリットルから1989/90年度の1,192万キロリットルへと増大した。
      中南米諸国では1980年代の債務危機を経て,世界銀行やIMFが主導する「市場原理主義」へと経済戦略の転換が行われ,ブラジルでも1990年より各種規制緩和,各種農業補助金の減額・廃止が行われた。砂糖・エタノールについても,1990年以降,ブラジルにおいて長期にわたって実行されてきた砂糖・エタノールの生産,流通,販売に関する政府および関係機関の規制は多くが撤廃された。
      現在,残された規制は砂糖とエタノールとの需給を調整するために,農務大臣がガソリンへの無水エタノール混合割合を20-25%(プラスマイナス1%の変動も可)の範囲内で設定できる農牧供給省令554号に基づく措置があり,2006年3月現在は20%に設定されている。ガソリンへの無水エタノール(アルコール分99.3%以上)混合割合の設定については変動幅が小さいこと等から砂糖需給への影響度は限定的である。現在,ブラジルにおいては,砂糖およびエタノールの生産,価格,需要,貿易等についての有効な市場介入措置は行われていない。
    3. エタノール・砂糖需給動向
    4. F.O.Liht社によると,エタノールの2005年時点における世界の生産量は4,605万キロリットルであるが,ブラジルはこのうち1,602万キロリットルと世界の生産量の34.8%を占めている。また,国内市場について鉱山エネルギー省の統計をみてみると,エタノールの生産量は1989年から2003年にかけて,年平均1.4%増加した。
      最近の動向について,農牧供給省の統計でみると無水エタノールの生産量は,2003/04年度の876.8万キロリットルから2005/06年度の878.9万キロリットルへと0.2%の微増であるが,含水エタノール(アルコール分92.6%以上)については,587.2万キロリットルから970.3万キロリットルへと65.2%の増加である。この含水エタノール生産量の増加には,ガソリンとエタノールが任意の混合割合を設定して走行できる乗用車である「フレックス車」が2003年から販売されたことが大きく影響している。「フレックス車」の導入により,ドライバーはガソリンとエタノールの比を双方の価格比に応じて柔軟に変えることができる。
      この「フレックス車」は2004年には新車販売台数の35%程度であったが,その後に販売比率を伸ばし(第1図),2006年2月には77%を占めている。国際原油価格の高騰によるガソリン価格上昇を受けて,今後も「フレックス車」の販売は増加することが見込まれる。この事から,ブラジルでは「フレックス車」の急増による国内含水エタノール需要量が再び増加することが見込まれる。
    5. エタノール・砂糖供給構造
    6. ブラジルにおけるエタノール生産における第1の特徴は,エタノール・砂糖両方を生産できる工場の割合が全体の8割と多数を占めていることである。また,第2の特徴はさとうきびから抽出した糖汁をエタノールと砂糖の国内価格比に応じて生産者にとって相対的に有利な生産物(砂糖およびエタノール)への配分を選択できることである(第2図)。ブラジルでのさとうきびからエタノール・砂糖への仕向け量は50.7~64.3%と半分以上が砂糖ではなくエタノールに仕向けられている(2000~2005年)。砂糖とエタノールの価格,生産に関する規制が撤廃された現在では,エタノールと砂糖はさとうきびを原料とし,砂糖とエタノールの相対価格によりさとうきびからエタノールおよび砂糖への配分を行う観点から,エタノールと砂糖はさとうきびの配分をめぐり競合関係にある。
  2. 今後のエタノール・砂糖政策の展開方向
  3. ブラジルでは2005年9月に農産物の再生可能エネルギーの利活用促進のための「国家アグリエネルギー計画」が発表された。この計画ではエタノールの輸出拡大政策が明確に打ち出された。これは,国内市場向けが主であったエタノールについて輸出拡大志向を明記した大きな政策転換であるといえる。ブラジルは今後,代替エネルギー政策としての「エタノール計画」を導入している日本,中国および中南米諸国に対して,輸出拡大政策を積極的に行っていくことが見込まれる。また,国際原油価格が今後も堅調に推移することが見込まれる状況下,国内では「フレックス車」は今後も販売台数を伸ばし,これに伴い含水エタノールの需要量が増加することが見込まれる。
    一方,砂糖については,EUの砂糖政策が貿易歪曲的であるとしてブラジルがタイ・豪州と共にWTOに提訴を行い,最終決定が下った結果,EUは2006年6月から砂糖政策改革を実行した。特に,介入価格を廃止して参考価格への移行(2006年度から参考価格を4年間で36%削減)により,EUの砂糖生産量および輸出量は,2004/05年度から2012/13年度にかけて総生産量は7.9百万トン,総輸出量は5.3百万トンの減少が予測されている。これに対して,ブラジルは2004/05年度から2012/13年度にかけてEUが伝統的に輸出していた地域を対象に4百万トンの輸出量増加を目指している。
    以上のように,ブラジルは今後,エタノールについては輸出量を拡大する政策を行う一方で,国内では「フレックス車」の増加に伴う含水エタノールの需要量の増加,さらに,砂糖についてもEUの砂糖制度改革の実行に伴い,砂糖の輸出量を拡大することが見込まれる。このため,ブラジルは今後,エタノール・砂糖双方の生産を増加していく必要がある。今後,ブラジルはエタノール・砂糖向けの配分比率を変更せずにエタノール・砂糖を増産することが求められる。ブラジル農牧供給省によると,2010年までに砂糖は1,200万トン,エタノールは120億リットルの増産が可能である。そのためには原料であるさとうきびの増産は不可欠である。ブラジルではさとうきびの増産を図るため,これまで品種改良努力が行われてきた。さとうきびの単収は1980年代は年平均0.7%,90年代は同0.9%増加し,2003/04年度の73.0トン/haをピークに減少傾向(第3図)にあり,今後の単収増加には更なる品種改良努力が必要であるものの,現在のところ単収を大きく増加させる品種の開発には至っていない。このため,ブラジルはこれまでのようにさとうきび増産のために作付面積の増加により,対応せざるを得ない。さとうきび作付面積の拡大は,未だに「フロンティア」地域が存在し,国内における耕作可能面積が豊富にあることからも可能であると思われる。
  4. おわりに
  5. 世界最大のエタノール・砂糖生産・輸出国となったブラジルのエタノール産業は「フレックス車」の増加による国内エタノール需要量の増加および東アジア・中南米地域を中心とした輸出拡大志向を強めている。また,砂糖についてもEUの砂糖改革の実施による砂糖輸出量増加を図る方針である。ブラジルはエタノール・砂糖向けの配分比率を変更せずにエタノール・砂糖を増産することが求められており,ブラジルはこれまでのようにさとうきび増産のために作付面積の増加により,対応せざるを得ない。
    さとうきび作付面積の拡大は,未だに「フロンティア」地域が存在し,国内における耕作可能面積が豊富にあることからも可能であると思われる。しかし,ブラジルではさとうきび作付け面積の増加は土壌浸食,大気汚染,土壌塩類集積,水質汚染等の環境へ悪影響を与える可能性がある。このため,今後,ブラジルにおいてエタノール及び砂糖増産をインセンティブとする開発が更に行われた場合,環境にも負荷を与える可能性がある点に十分,注視が必要である。
URL http://agriknowledge.affrc.go.jp/RN/3010019042
カテゴリ 再生可能エネルギー さとうきび 品種 品種改良 輸出

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