インドネシア森林火災による森林環境の変化と菌類や昆虫への影響

タイトル インドネシア森林火災による森林環境の変化と菌類や昆虫への影響
担当機関 (独)森林総合研究所
研究課題名
研究期間
研究担当者 阿部 恭久
明間 民央
槙原 寛
発行年度 2002
要約 インドネシア大規模森林火災(1997~1998)の被害地東カリマンタン州ブキット・バンキライを調査し、火災が森林の微気象、菌類、昆虫類に与えた影響と火災後の回復状態を明らかにした。
背景・ねらい インドネシアでは1997~98年にエルニーニョの影響により過去最大規模の森林火災が発生した。この森林火災ではカリマンタン島とスマトラ島の被害が特に大きく、森林生態系や森林に生息する生物は大きな影響を受けたと考えられる。そこで、森林火災が森林の環境、植物相、動物相、微生物層に与えた影響と火災後の回復状態を明らかにするため、火災被害の大きかった東カリマンタン地域のブキット・バンキライを調査地に選定し、森林火災被害林に2カ所(重度被害林:高木層が全て消失、軽度被害林:高木層が一部残存)、無被害林に1カ所の固定調査区を設け、微気象、腐生菌類相、菌根、昆虫群集に与えた影響の調査を行った。
成果の内容・特徴

1.林内の微気象への影響

温湿度センサーを各調査区に設置し、2年間にわたり温度と湿度を計測した。その結果、無被害林では気温は年間を通して22~32℃の範囲に保たれ、湿度も100%近くとなる安定した環境が維持されていた。これに対して、重度被害林では最低気温は20℃以下、最高気温は40℃以上になり、湿度も低下するなど、変動幅が大きく、林内環境が悪化していることが判明した(図1)。

2.腐生菌類への影響

無被害林では71種、軽度被害林では69種、重度被害林では68種の腐生菌類が確認された。種数に関しては被害林と無被害林にほとんど差は認められなかったが、種構成に違いがみられた。重度被害林内でも、谷筋の早生樹種の繁茂した地点と尾根筋の裸地化した地点では、種数、種構成ともに顕著な違いが認められた。谷筋では早生樹の倒木が多く発生したため、無被害林よりも多くの種が確認されたが、尾根筋では少数の特異な菌類が確認されたのみであった。採集した菌類の生育限界温度と水ポテンシャル値を調査した結果、被害林には40℃以上でも生育が可能な高温性菌類や乾燥耐性の高い菌類が多くみられた。このように森林火災は腐生菌類の多様性にも大きな影響を与えていることが明らかになり、森林環境変化の生物指標として腐生菌類が利用可能であると考えられた(図2)。

3.菌根形成への影響

フタバガキ科樹木はきのこと共生して外菌根を形成するが、菌根の多くは地表近くのごく薄い腐植層内に分布し、森林火災によってダメージを受けやすい。火災の3年後の調査では、宿主樹木の近くで採取した試料には軽度被害林でも無被害林と同等の菌根形成が見られたが、ばらつきが大きかった。また4年後にランダムに採取した試料では軽度被害林の菌根量は明らかに少なく、回復が局所的であることが分かった。菌根形成の場となる腐植層自体は、量的には3年後には回復していた。菌根性のきのこについては、菌根が検出されなかった重度被害林でも4年後には先駆的な種が出現し、再定着が起こっていることが分かった。軽度被害林では無被害林同様に極相的な種が3年後から見られ、被災前の菌根菌が生き残っていたことが示唆された。これらから、菌根は宿主生存個体周囲では比較的速やかに回復することと、きのこ相から破壊の質的深刻度と回復段階を評価できることが示された(図3、4)。

4.昆虫、特にカミキリムシ類への影響

Artocarpus属樹木の枝を用いたトラップを各調査区内に設置し、カミキリムシ類の捕獲調査を行った。火災3年後の調査で捕獲した種数と個体数には大きな差は認められなかった。しかし、種構成は異なり、無被害林ではAcalolepta unicolorA.disparGnoma longicollisなどが多く、重度被害林ではPterolophia crassipesRondibilis spinosulaSybra binotataなどが多かった。これらの種は被害の指標種になると考えられた。火災4年後の調査を解析した結果、重度被害林ではカミキリムシ相に回復の兆しはなかったが、軽度被害林では天然林に近いカミキリムシ相に多少変化していた。今後はこの成果を利用して、火災後の森林の回復度を判定することが可能となる(図5)。なお、本研究は環境省地球環境研究総合推進費「森林火災による自然資源への影響とその回復の評価に関する研究」による。
URL http://agriknowledge.affrc.go.jp/RN/3010002688
カテゴリ 乾燥 植物相

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