親が倒れて子を育てる -倒木更新のメカニズムを探る-

タイトル 親が倒れて子を育てる -倒木更新のメカニズムを探る-
担当機関 森林総合研究所
研究課題名
研究期間
研究担当者 高橋 正通
松浦 陽次郎
酒井 佳美
田内 裕之
飯田 滋生
阿部 真
丸山 温
森 茂太
北尾 光俊
山口 岳広
坂本 泰明
佐々木 克彦
発行年度 1997
背景・ねらい 針葉樹の天然林では、倒れた木(倒木)が腐り、その上に次の世代を担う若木が育つ。これを倒木更新という。親木は種を飛ばすだけでなく、倒れた後は自らの身を腐らせて子を育てる。自然の摂理である。なぜ倒木上で稚樹(若木)が育ちやすいのかについては、諸説がある。一方、林業では天然林から大きな木を抜き切りして利用してきた。そうするとめったに倒木は発生しなくなる。倒木更新も起こらず、しだいに稚樹の少ない森林となってしまう。我々は倒木の発生とその腐り方、倒木上の稚樹の生理状態や生死を調べ、自然が持つ天然林の再生方法を明らかにすることを目的に研究を行った。
成果の内容・特徴 大雪山周辺は1954年の洞爺丸台風で大被害を受けたが、大雪湖の奥に風害を免れた森林が残っており、調査をそこで行った。まず生きた木の芯が腐朽菌によって腐っているかどうかを、電気ハンマーのストレス波によって調べた。ストレス波の遅い木は腐っている可能性が高い。トドマツは比較的若い木でも腐った木が多く全体の70%に腐れが入っていた(図1)。エゾマツやアカエゾマツは直径の大きな木に腐ったものが見られ、その割合は30~40%であった。これらの腐った木は強風で倒れやすく、倒木の予備群といえる。

倒木の腐朽度と稚樹の数を見ると、ある程度腐朽の進んだ倒木の方が稚樹は多かった。しかし稚樹の多い倒木中の養分状態を調べると、地表の落葉より酸性で養分に乏しく栄養条件は悪かった(図2)。落葉には暗色雪腐れ病菌が多く住んでおり、冬の間に稚樹や種子を枯死させる。倒木は養分の乏しさゆえに無菌的な条件を作り、発芽しやすい環境を作るようである。また倒木上にある稚樹の葉の生理状態を調べたところ、弱い光に対しても光合成能力は高かったが、葉の水分状態(水ポテンシヤル)は低く、倒木や、腐った根株上の稚樹は少し乾燥気味であった(図3)。養分や水分状態から見ると倒木は必ずしも樹木の成長に好適ではないが、菌害を回避できる安全な場所といえる。

次に種子から発芽した稚樹の生死を追跡した。地上で発芽したエゾマツやアカエゾマツは、倒木上で発芽したものより、冬期間の死亡率が高かった(図4)。死亡は暗色雪腐れ病に感染するためと推察された。一方、トドマツの稚樹の生死は地上も倒木上もあまり変わらない。むしろササの被陰による死亡が多かった。倒木はササを押し除け被陰を回避する働きを持っている。

以上のように、倒木更新による自然の再生は、倒木発生や腐朽の程度、菌害の回避、稚樹の生育環境など諸条件が整ったときに行われるのである。

なお、本研究は科学技術庁科学技術振興調整費重点基礎研究「北方林生態系における倒木が形成するマイクロコスモスに関する研究」による。
URL http://agriknowledge.affrc.go.jp/RN/3010002589
カテゴリ 乾燥 コスモス

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